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ルージュライン[S系年下王子に魅せられて~夢の中の恋~]

甘~い書き下ろし&イラスト付きで配信決定! 同じ会社の後輩・通称「王子」と甘くて淫らな取材旅行!? S系年下王子に魅せられて~夢の中の恋~

有允ひろみ

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【お試し読み】S系年下王子に魅せられて~夢の中の恋~

「ちょっ……」
 振り向いた瀬戸君と、目が合う。彼の顔にいたずらっぽい微笑みが浮かんだ。そのまま扉外へと引っ張られて、立ち止まって振り返った時には、エレベーターはもう四階に向かっていた。
「またぁ?」
 目の前にいる王子を軽く睨みつける。内心はドキドキしているけど、冷静を装い、やれやれとため息をついてみせる。
「ええ、また、です」
 瀬戸君が声を出して笑う。人目につく直前のタイミングで放された手が、まだジンと熱く火照っている。ここ三階は、いくつかのクリニックが入っている医療フロアで、今の時間帯の廊下は、まだシンと静まり返っている。
「さ、行きましょうか」
 瀬戸君の右手が、私の左手に戻ってくる。ぎゅっと握られ、心臓が波打つ。
「もともとは沢木さんが始めたんですよ? 仕事がたて混んでる時には、ちょっとの時間を見つけて運動しなきゃいけないって」
「そりゃそうだけど……」
 瀬戸君が入社して間もない頃のことだ。当時の彼は、仕事を覚えることに手一杯で、好きな運動をすることもままならない状態だった。そんな彼が、ある日私にこぼしたことがあった。仕事は面白いし、やり甲斐があるけれども、このままでは身体がなまってしまいそうだと。その頃は、まだ瀬戸君に恋をする前の私だった。次の日の朝、ちょうど彼とエレベーターに乗り合わせた私は、ふと思いついてそばにあった彼の手を引っ張り、一緒に階段を昇ろうと誘ったのだ。
「仕方ないなぁ……」
 よほどの物好きでない限りは、こんな時間に階段を使う人はいない。ふたり手を繋いだまま非常扉を通り抜けて、殺風景な階段を昇っていく。こんな風に出社するのは、今月になって二回目。未だ繋がれたままでいる手が、どのタイミングでまた離れるのか。私の全神経は、触れ合った掌だけに集中している。
 四階踊り場に彼の足が届いた時、ごく自然に繋いでいた掌が離れた。緊張が解け、思わずほっと一息つく。
「あ、そういえば、部に新人さんが入ったんだって? その人が今度研修を兼ねてうちにも関わってくるって編集長が言ってたけど」
「ええ、志摩(しま)さんっていうんですけど、僕が教育係を仰せつかったんです。それで、うちの部長を通して編集長にお願いしたんですよ。僕を教えてくれた沢木さんもいることだし、是非編集部でもいろいろと勉強させていただきたいって」
「そうなんだ」
 ふと、出逢った当初の瀬戸君のことが頭に思い浮かんだ。あの頃は、ただ爽やかさだけが目立っていたのに、二年経った今の彼は、見違えるように成長している。
「彼女、元々『Sylvie』の熱心な読者なんです。ゆくゆくは編集の仕事にもつきたいって言ってますし、沢木さんと仕事が出来ることをすごく喜んでいますよ」
「ほんと? なんだか気合いが入っちゃうな」
「ビシバシ鍛えてやってください。見掛けはそう見えないんですけど、結構体育会系の骨太女子ですから」
「へぇ、頼もしいんだ。そういえば、すごい美人さんなんだってね。みんなが噂してたわ。瀬戸君も気合いが入るわよね」
 事業部に入った新人さんについて、実は凄く気になっていたことを何気なく尋ねてみる。
「ええ、確かに」
 さらりとそう言われて、階段を昇る脚が急に重くなったような気がした。我ながら、おかしい。夢の中では恋人同士のふたりだけど、現実の世界ではただの仕事仲間に過ぎないのに。
(やっぱり、そうよね……)
 目の前にあった瀬戸君の背中が、だんだんと離れていく。
(ふふっ、馬鹿みたい。ちょっとでも期待してたんだ、私ったら……)
 いくら夢の中で恋人の真似事をしようと、現実の彼には、やはり本物の美しい姫君が用意されているのだ。
(でも、いいよね? こっそり恋して、夢に見るくらいしたって)
 だって、気が付いたらもう彼に恋をしていた。毎日のように顔を合わせて、彼という人を知るうち、自然と好きになってしまっていた。素直で何事にも一生懸命。彼の外見だけではない内面の美しさに、いつのまにか強く心惹かれてしまっていたのだ。
 彼を想うと、それだけで胸がときめく。心が浮き立ち、きらきらとした感情が溢れてくる。だから──。
 今ある恋心は、大切にとっておこう。このまま夢の中に閉じ込め、夢の中で目覚めさせて、そこで遊ぼう。いつも仕事優先で、女であることすら忘れがちの私だ。それくらいのご褒美を欲しがっても、神様はきっと微笑んで許してくださるに違いないから。


「ねむ……」
 誰もいないオフィスの中で、握りしめたペンが手の中でぎしりと鳴る。縮こまっていた肩をぐっと外に押し開いて、おもいっきり大口を開けてあくびをする。
「ぐ……」
 瞳が潤んで、目の奥がじぃんと痺れる。やっと明日提出するコラム記事のチェックが終わった。『Sylvie』で編集を担当するようになってから七年。月末は、いつも時間に追われている。
 誌面を飾るいくつかのコーナーを掛け持ちしながら、担当である『ティアラな時間』の企画を立て、取材からレイアウトまで一連の仕事をこなしていく。肩凝りと眼精疲労に悩まされる毎日だけど、大好きな仕事だから、頑張って続けられる。
 時計を見た目線を、窓の外に移動させる。夕暮れ前の空は、まだ十分に明るい。
 休日に出勤するのは、今月になってこれで二回目。忙しさがいつにも増して度を越しているのは、いくつかの撮影と取材が立て込んでいたから。
 さっき飲んだドリンク剤のお蔭で、頭はまだかろうじて働いている。だけど、それに身体がついてこない。慢性化した睡眠不足に、もう半分ほど目蓋は閉じかけ、連続して出るあくびのせいで目尻からはぽろぽろと涙が零れ落ちる。
「お疲れ様です」
 突然、部屋の入り口から瀬戸君の声が聞こえてきた。
「あれ? どうしたの、今頃」
 視界の端で彼の姿を確認した後、俯いて頬をごしごしと擦りあげる。
「ちょっと思いついたことがあって、それについて見たい資料を取りに。もしかして沢木さんがいるんじゃないかと思って、ついでに覗きに来たんですよ」
「そうなの、相変わらず仕事熱心なのね。案の定、私はここにいるわ」
 ほつれ髪を指先で撫でつけ、彼の方に振り向く。と、目の前に来た彼の右の耳に、金色に光るティアラ型のピアスを見つけた。
「それ、可愛いわね」
 ついと彼の右耳を指差す。瀬戸君の目線が、私の指先を追う。
「あ、うっかり外すのを忘れていました。これ、両方のパーツが磁石になっているから、穴がなくてもつけられるんですよ」
「ふぅん? 瀬戸君って、ピアスとかするんだ」
 意外と似合う。さすが王子様だ。カラーシャツに明るいベージュ色のチノパン。スーツ姿ではないラフな格好の彼に、つい見惚れてしまいそうになる。
「いえ、これはちょっとふざけて付けられちゃったもので……」
 ひどくばつの悪そうな瀬戸君の顔。
「彼女?」
 咄嗟に、そんな質問の言葉が飛び出た。
「いや、そんなんじゃなくて」
「ふふっ、隠さなくてもいいのに」
「ほんとですって」
「んー? はいはいっ……」
 笑って顔を背ける。やっぱり、彼女がいるんだ。当然と言えば、当然のこと。彼みたいな爽やか王子に、恋人がいない方がおかしいもの。
「原稿、終わったんですか?」
「うん、なんとか」
「じゃ、一緒に帰りませんか。よければ、どこかで軽く食事でもどうです?」

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