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トップ ルージュライン 『女王蜂の王房』 【お試し読み】女王蜂の王房 白鴎編

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大人気18禁乙女ゲーム『女王蜂の王房』待望のノベライズ決定! 『女王蜂の王房』

かほく麻緒

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【お試し読み】女王蜂の王房 白鴎編

「私しか王女がいないからでしょう?」
 私しか、子宮を持たないからでしょう?
 私しか、発情をしないからでしょう?
「それはそうだが、それだけじゃねえよ。皆、お前のことが好きだ。この城の中で咲き誇る一等美しい花は、めのう。お前だよ」
 喜ばしいはずの言葉に、私はまた、はらりと涙をこぼす。白鴎の胸に抱き締められた私の涙は、もう拭われることもなくただ流れ、衣服を濡らした。
「どんなふうに美しく咲くことができたとしても、私は私以上にはなれないのに」
「そのままのお前で十分だ」
「本当ですか?」
「ああ、もちろん」
 強く抱かれ、頬を胸に押しつけられる。濃い、濃い濃い濃い、雄の香りがした。
 ぞわりと全身が粟立つ。ぞくぞくと背筋が震える。腹のずうっと奥底で、何かドクリと脈打った。
 嫌だ。
 身を硬くする。
 嫌だ。
 どうかソコへ私を連れて行かないで。その暗い沼地へ私を引きずり込まないで。
「おひいさん。大丈夫だって、何も心配するな。これからは俺がずっと、ついててやるよ」
 甘く、甘く甘く甘く香る雄の香り。
 吐息混じりの白鴎の声にも雄の香りが乗り、ああ、もう嫌だ、と私は自身に絶望した。
 この、発情、という代物を、こんなにも強く感じることはこれまでになかった。次第に強くなるこの気持ちの悪い欲求を、私は見て見ないふりをし、蓋をし続けた。そんな穢らわしいものがこの体に生まれるなど、本当に心の底から嫌だと、私はソレをないものとして扱い続けた。
 母がベッドに伏せるようになってから訪れた、この不快感。母が亡くなったのは今朝のことだというのに、一瞬でコレは、とんでもなく強くなった。
「でも白鴎は、いつだってふらりといなくなってしまうんですもの」
「お前の一大事に、ふらふらなんかしねえよ。今日だって、報せが耳に入ってすぐ、下界からこうして飛んで帰って来たんだからな」
「では、これからはずっと一緒ですか?」
「ああ、一緒だ」
「本当に?」
「信じられねえか?」
 ゆっくりと顔を上げ、白鴎を見る。どこか悲しげな白鴎の顔は、私のよく知る彼のものだ。私は心からの安堵を覚えると共に、こんな純粋な気持ちがあってなお襲い来る発情の余波に、やはり絶望を感じずにはいられなかった。
「おひいさん。お前なら女王となることもきっと大丈夫だし、これからは俺もついててやる。これ以上、不安がるな。お前が不安がってると、国の皆が不安定になるぞ」
「そうですよね。分かりました、白鴎」
「よし、いい子だ」
 やや乱暴に頭を撫でられる。もう子どもではないけれど、白鴎は時折こうして私を子ども扱いする。いや、してくれる。の方が正しいかもしれない。そうされることで私は、少なからず救われていたのだから。
「白鴎。もう今日からは、ずっと一緒ですか?」
「ああ、そうだな。お前に愛想尽かされるまで、一緒にいるつもりだ」
「白鴎に愛想を尽かすなんてこと、あり得ません」
「分からないだろ。女王になれば、色々と変わっちまうだろうからな。ああ、でも、そうやって不安そうな顔することねえって。きっと、いい時代が来るさ。お前が女王になれば、新しい時代がやってくる」
「私はやはり、お母様とは違うけれど」
「ああ、それでいいんだ。皆、これからはお前の意見に賛同する。お前の理想の国を目指し、皆、突き進んでくれる。それが、この王国だろ? それが、女王蜂の君臨する蜂の王国だ」
 白鴎の言葉に、ためらいがちに頷いた。
 女王蜂の産んだ蜂達は皆、女王の命令に従うようインプットされて産まれてくる。例外はない。皆、女王のために産まれてくるようなもの。
 だから、次期女王となる私の理想が、この蜂の王国の理想となるのでしょう?
 そんな悲しいことを言いたくて、言わないまま胸に秘め、私の心はこんなにも悪い子なのに、いい子のふりをして笑みを作る。
 皆、私はいい子だと言う。優しくて笑顔の絶えない、とても王女らしい、いい子だと言う。ところが、この胸の内はこうだ。いつも何かを、誰かを否定しているし、正直にものを言うことはできないし、あろうことか、この蜂の国の在り方にまで疑問を抱き続けている。
 なぜ、たったひとりの女王蜂が絶対なのか。
 なぜ、女王蜂だけが交合をし、子を孕み産み続けなければならないのか。
 なぜ、罪のないヒトを喰らわなければならないのか。
 なぜ、私は王女として生を受けてしまったのか。
 なぜ。なぜなのだろう。
 女王蜂となろうとしているこの私こそが謀反者であり、この国を破滅させる悪の因子なのではなかろうか。
 不安は胸につのる。
 それでも私は微笑む。そうすれば皆が笑ってくれるから。そうすれば、皆、私がいい子なのだと錯覚してくれるから。
 こんなにほの暗く穢らわしい心身を抱えていてもなお、私はいい子だと、皆が騙されてくれるから……!


続きは2015年1月15日(木)発売フルール文庫ルージュライン
「女王蜂の王房~白鴎編~」にてお楽しみください。

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