ブルーライン[ビレイライン]
2013年フルール新人賞佳作受賞! フルール期待の新人がお贈りする、大人の男の駆け引き。 ビレイライン
淡路水
【お試し読み】ビレイライン
シャワーの水音が広いバスルーム中に響き渡る。
何の変哲も無い、ただのラブホテルのバスルームだ。広い浴室に、ガラス張りの壁と大きな鏡。ここではどんな声をあげようと、どんな恥ずかしい格好をしようとも何の遠慮もいらなかった。
「……っ、……あぁッ……あ……ん……っ」
賀川(かがわ)はいつものように、慣れた男の手のひらで喘がされていた。
背中から抱き込められ、賀川の背についた筋肉の割れ目をなぞるように、舌が這わされる。逞しい男の手が器用に賀川の乳首を弄った。引っ張ったり、指先で転がされたりして、赤く染まった乳首はジンジンと痺れ、しかしまだ足りないと貪欲に刺激を求めた。
「……ゃ……ぁ……そこ……もっ……と」
腰をくねらせて、もっと強い刺激が欲しいと賀川はねだった。
「あんた、ホント、乳首好きだよね。ね、乳首でイク?」
背後にいる意地悪な男に、クスクスと笑いながら耳の穴に舌を差し入れられ、ねろりと舐められた。広瀬の舌先が耳の奥でごそりと鈍い音をさせ、そこをなぞられる得も言われぬ感覚に皮膚を粟立たせる。
広瀬(ひろせ)の少し低めの声はとても好きだ。聞いていて心地良い。吐息と共に声が鼓膜に届き、賀川の腰がまた痺れる。
「返事は? 賀川さん」
返事を促されて、賀川は首を振った。乳首でイクのもいいけれど、今はもっと別のものが欲しい。男の逞しいもので奥を乱暴に突いて欲しかった。
「きて……、広瀬……っ」
壁に手をついて、腰を後ろにいる広瀬へ突き出す。すると広瀬はククッと笑い声を漏らした。
「堪え性ないんだから。淫乱」
広瀬の言う通りだ。自分は淫乱だと自覚している。やさしく抱かれるのもいいけれど、こうしてただ欲望を満たすためだけにするような、獣の交尾めいた乱暴なセックスにも興奮する。
「広瀬ぇ……早く……」
後ろの孔が疼いて疼いて仕方が無い。早くその太くて固いものをぶち込んで掻き混ぜて欲しい。尻を揺らして、広瀬を誘った。
「わかったよ。……ったく、火を見たあとはいつもこうだ」
パン、と広瀬の平手が賀川の尻を叩いた。
「ひっ……」
叩かれて、一瞬腰を引く。
ぶたれるの好きなくせに、と広瀬が言うなり、彼の指が賀川の後ろへ触れた。
「あ…………」
賀川と広瀬は消防士であり、同じ隊の先輩後輩という間柄である。昨夜遅くに繁華街にある飲食店が全焼する火事があったため、当番勤務の賀川と広瀬は出場していた。
火はなかなか鎮火せず、小さい店が密集している一角だっただけに消火までに時間は要したものの、幸い死傷者は出さずに済んだ。
消防士という仕事は、朝に次の当番隊との交替を行う。賀川達は夜通しでの二十四時間勤務を終えて、引き継ぎをしてきたところだ。
そして帰りしな、こうしてフリータイムになったホテルに広瀬としけこんでいる。朝っぱらからと呆れる者もいるだろうが、仮眠も取れるし、性欲も満たすことができて賀川にとっては良いことずくめだ。
「ローション向こうだから」
そう言って広瀬は賀川の尻を割り開くと、自ら屈んで賀川の後ろの窄まりに舌を這わせた。
「……っ、……やぁ……っ、広瀬……それ……や……めっ」
襞を丹念に舐められるのは嫌いではない。むしろとても好きなくらいだ。けれど、そうされると感じすぎておかしくなる。
「いや、じゃないくせに。あんたここ舐めるとすごい乱れるだろ」
ぬるりと襞を舐められ、また舌先が狭まったところに入り込んできた。柔らかでざらりとした感触に、ぞくぞくと快感が這い上がってくる。
「ぁ……ぁあ……ん……」
早く広瀬を感じたいのに、当の広瀬は焦らすばかりだ。
火事に興奮する人間は一定数いるらしいが、賀川もそれに近い。賀川は大きな火を見ると、性欲が抑えられなくなる質で、しきりに誰かの熱を感じたくなる。
この仕事は火と向き合うのは日常茶飯事で、だからこうして男に抱かれているのが常だった。
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