ブルーライン[つないであなたのものにして]
表紙&口絵イラストつきで電子書籍限定配信決定!手の届かない男に恋焦がれた香矢の危険な“火遊び”とは――。 つないであなたのものにして
葵居ゆゆ
【お試し読み】つないであなたのものにして
「……」
何も言えなかった。何か言いたかったのだけれど、どうしていいかわからなかった。こうちゃん、ともう一度母の声がして、香矢は身を翻して台所まで走った。広いのだけが取り柄の古い田舎の家はそんなに好きではなかったのに、このときだけは慣れ親しんだ空気にほっとした。怺嗣は夜のトイレよりもずっと怖かった。
怖いと思ったのに、どうしてか、怺嗣が帰ってしまうととても寂しかった。無理しなくてもいいんですよ、という声を何度も反芻して、お正月にまた怺嗣が来たときには飛びついた。あらまあ香矢ったら懐いて、と笑われても離れられなくて、怺嗣にまで苦笑された。
「待っててくれたんですか? ありがとう」
ありがとう、も子供のくせに言われ慣れていた。でも、怺嗣の「ありがとう」ほど特別に聞こえたことはなかった。ぎこちなく頭を撫でてくれるてのひら。抱きついた痩せた身体の温もり。服にこもった遠い場所の匂い。
「……んっ」
下から突き上げられ、香矢は現実に引き戻されて喉を反らした。濡らして準備したのに、男を飲み込んだ孔は乾いた音をたてている。香矢は痛みをこらえて緩く腰を振った。
「うっ……いいね……気持ちいいよ」
うっとりした声をあげて高橋が上に跨がった香矢の腰に手を這わせてくる。大きな手は湿っていて、ほっそりした香矢の腰を掴むと「もっと動いて」と言ってくる。
「奥まで入れてさ、今みたいにぐっと……う、そうそう……っ」
香矢は言われたとおりに押しつけて円を描くように尻を振ってやった。高橋が息を荒らげる。香矢は自分のものを握りしめた。「ああん気持ちいい」と声を出してから、さすがにわざとらしいか、と思ったが、高橋は気にもとめなかった。
「俺もイきそうだよ……一緒にイこう」
「嬉しい」
微笑んで手の動きを早くして、香矢はきゅっと尻に力を入れた。高橋が達するのを感じながら、先端をしごいて射精する。
それから腰を上げて高橋の上からどくと、ずるりとゴムをまとった性器が抜けて、香矢は密かに息をつく。気持ちののらないセックスほど虚しいものはない。たいていの場合はいろんなことがどうでもよくなる程度には役に立つのに、今日は楽しめなかった。
続きは電子書籍にてお楽しみください。