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「……え? まだ俺に挿れるつもりだったの?」同級生カップルの上下攻防戦☆お試し読み連載開始! 上下の沙汰もネコ次第

栗城偲

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【お試し読み】上下の沙汰もネコ次第

 鹿又累(かのまたるい)と、恋人の涌谷映次(わくやえいじ)との付き合いはそれなりに長い。
 高校一年生のときのクラスが一緒で、そこで友達になってからは十年、恋人になってからは五年になる。
 はっきり言って、涌谷映次は可愛い。恋人の欲目も多少あるかもしれないが、日本一可愛いと、累は思っている。
 身長は日本人男子の平均よりも十センチ以上は高く、高校までスポーツをしていたので累よりもがっしりとした体つきだ。今は警備会社に勤めていて、暇を見つけては筋トレをしているようで衰えは見られない。それでも、累は自分の恋人がいつも可愛く見える。
 穏やかで照れ屋で、パッと見は迫力があるが、笑うと線になる目はいつも優しげで好ましいし、「気は優しくて力持ち」を地でいくような男だ。
 厚めの唇はキスをするととても気持ちがいい。常に笑顔を絶やさない彼の目が、時折真面目になるとどきりとする。
 心地のいい中低音で「累」と呼ばれる瞬間も好きだ。割と落ち着きのある声なのに、恋人である累を呼ぶ瞬間だけは、子供のように無邪気な、そして甘い響きを持っていて、自分が彼にとって特別な存在なのだと思える。「好き」と臆面もなく言ったかと思えば、その直後に照れたりするのも可愛らしい。
 顔や声は勿論だが、性格も好ましい。ずぼらな累と違って何事もきっちりしているし、家庭的だ。手先が器用で、料理や日曜大工が趣味で、休日になるとなにか黙々と作っていたりする。累のマンションに置いてある書棚や整理棚は映次の作だ。図工や技術家庭科の授業で3以上の成績を取ったことがない累とは大違いである。
「……そんな風におだてたって、無駄だからね」
 むう、と唇を尖らせて、映次は累を見下ろしながら不満を露わにする。
 それでも散々累が並べ立てた「好きなところ」に、悪い気はしないようで、口元がちょっと緩んだのは気のせいではないだろう。
「おだててねーし。本当のことだし」
 累は体をもぞつかせながら、ぎこちなく笑ってみせた。映次はほんのわずか顔を顰めて、さりげなく腕の下から抜け出そうとした累の肩を押さえこむ。
 学生時代バスケット部に所属していた映次は、累よりも一回り体が大きく、体重は十キロ以上重い。上から押さえつけられると逃げるのが困難で、累は分の悪さを悟って視線を泳がせた。
 寄りかかったり、抱きしめられたりすると心地よい安堵感を覚えるが、こうして押さえつけられるときは、ちょっと嫌だ。背筋がそわそわとする。唯一この恋人に対して不満があるとしたら、たまにこういうマウントを取るような行為をされることだろうか。
 長身で男性的な映次に対して、累は身長も男子の平均に少し届かないくらいで、体重も軽い。普段は警備員、仕事帰りにはジムに寄る映次と違って、システムエンジニアで延々デスクワークをしている累には体力も筋力もない。抑え込まれたら敵わないだろう、と誇示されているような気がして苦手だ。
「俺が嘘言ってるとでも?」
「そうは言ってないけど、この状況で脈絡なくそんなこと言いだす理由もないでしょ」
 この状況、というのは、真っ昼間から自室のベッドの上で、恋人に組み敷かれているという現状のことだ。もう少し具体的に言うならば、累は下半身だけ裸の状態で、恋人である映次の手で既に一度いかされている。自分の出したものと潤滑剤のゼリーで、累の下肢はどろどろに濡れていた。
「それに、累は嘘を吐くときもっと舌が縺れるくらい早口になるし、目線があっちこっちいく」
 あまり自覚のない己の癖を言いたてられ、累は閉口する。
 けれど、滑る太腿を掴まれたのと同時に慌てて恋人の手を押し止めた。
「だ、だって、まだ昼なのにさぁ……」
「別にいいじゃない。俺たち今日二人とも会社休みだし。誰にも迷惑かけてないと思うけど? それに、どうせ昼から始めたって、なんらかの決着がつく頃には日が暮れてるよ。いつも。だったら昼から始めたって早いことないでしょ」
 なんらかの決着、という言い回しに累は眉根を寄せる。
 映次と累は恋人になってから何度もベッドで互いに触れているが、一度も「挿入」という行為をしたことがない。何度も何度も挑戦しているが、今までどちらがどちらに挿入したこともなかった。
「ほら、足開いて」
 そう言って、映次は累が徐々に閉じかけていた脚の間に、強引に体を割り込ませた。膝を割られた瞬間に、くぱ、と太腿から粘ついた水音がして、いたたまれなくて顔を逸らす。
「じ、自分のベッドでするのって落ち着かないっていうか……、っ」
 身を屈めた映次に耳の下の部分にキスをされて、思わず息をのむ。
「……そう言って、俺の部屋に来たら猫がいて集中できないとか言って逃げたり、猫の相手して逃げたりするの誰だっけ?」
 耳元で、少々苛立ちを含んだ声で言われて背筋がぞくんとする。
 それは累のせいではない。甘えてくる映次の愛猫二匹が悪いのだ。
 累は幸いなことに猫たちに気に入られているらしく、遊びにいくといつもにゃんにゃんと甘えてくる。映次も、猫がごろごろと懐いて来たら中断するのだから同罪だと思うのだが、そんなことを口にしようものなら怒られるので、累は大人しく口を噤んだ。
「はい、足掻きはもういい? 続きするよ」
「続きって、ちょ、待てって……」
「待たない。今日は俺がしていいって言った」
 言いながら、映次は枕元に置いていたボトルを再び手に取った。先程は累の前を弄るのに使われたそれを手に伸ばし、映次が尻に触れてくる。
「あっ……」
 逃げる暇もなく、滑りのある液体を纏った指が、ぬぷ、と音を立てて累の体の中に差し込まれた。武骨だけど優しい指が平素よりも無遠慮に累の内壁を探る。
 そうして、累の感じる場所を、慣れた様子で的確に責めてきた。
「う、ぁ……っ、や、え? やだ、なんで……っ?」
 急激に責めたてられて、累は思わず映次の服を縋るように掴んでしまう。
 いつもならもっと時間をかけてようやくそこに辿り着くのに、今日は初手からピンポイントでその部分を擦られた。心構えもできてないうちに感じる場所に触れる指に、混乱しながら恋人の顔を見上げる。
 映次は微妙な顔をして、更にもう一本指を増やしてきた。
「う……」
「息吐いて。ほら」
 咄嗟にのみ込んだ息を吐かせるように、映次が啄むようなキスをしてくる。言う通りにしたらもっとやられるじゃねえか、と思いながらも、息を止めてばかりはいられないので震えながら息を吐いた。
「いい子だね。累、リラックスして」
 声音は優しいのに、映次は少々強引に足を開かせた。
 累の体の中に入れた指を抜き差ししながら、微かに熱っぽい息を漏らす。
「……好きだよ」
 降り注ぐ声も視線も優しく、そういう風に見下ろされると、累もどうしていいかわからなくて、落ち着かなくなる。呼吸が乱れ、荒くなるのを知られたくなくて、手の甲で口元を押さえた。
「んん……」
 幾度か潤滑剤を足されて濡れた指が、ぐりぐりと累の体の中を広げ、擦る。いつもならもう少し余裕があるのに、今日はすぐに覚えのある感覚が腰骨から滲んで来て、累は体を強張らせた。
「や、やめろよ、映次」
 情けないことに声が上ずってしまった。
 映次は一度ぴたりと手を止めたが、真顔になってすぐに再開させる。

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