ブルーライン[囚愛契約]
WEB掲載分に書き下ろし&緒笠原くえん先生のイラストを加えて文庫化決定! 囚愛契約
ナツ之えだまめ
【お試し読み】囚愛契約
「宮本」
大江は身長こそ百六十八センチと高良より低いのだが、レスリングが趣味で、アマチュアでは国内の大会にも出ていると聞く。がっちりした身体つきをしている。
「あ、はい」
「あいかわらずのクソ度胸だな」
「え、そうですか?」
「おまえぐらいだよ。天下のホクヨープリズムさん相手に『ご指名ありがとうございました』なんて言いだすの。一瞬、向こうが機嫌を損ねたらどうしようと思ったけど、おまえって空気読み切ってるからな」
「そんなこと、ないですけど」
大江は高良を肘でつつく。
「なのになんだよ、長嶺の件では、やたら沈痛な面持ちだったじゃねえか」
ぎくりとする。ホクヨープリズムの鈴木の目はごまかせても、上司であり長いつきあいの大江には見抜かれてしまっている。
「そう、でしたかね」
「ああ、らしくなかったね。おまえ、あいつのこと、まだ引きずってんのか。まあ、言い方は悪いが、裏切るような真似されたんだから気持ちはわかるが。賞をとったらはいそれまでよ、だったからな」
「いや、裏切られた、とか。そんなん思ってないですけど」
高良は隣の柴田を気にする。柴田は鳳翔堂三年目の社員で高良の部下だ。彼に一番似ている動物はラクダだと高良は思う。目はつぶらなのだが、どこか間のびした印象を与える。だが、柴田は見かけによらず鋭くて、今だってそう見えなくてもきちんと聞いていることを高良は知っている。そんな高良の内心にまったくかまうことなく、大江は言い切った。
「あいつが辞めてから、組んだことないだろ。避けてるだろ、おまえ」
ズバリと遠慮なしに切り込まれて、汗が噴き出る。
「そんなことないですよ。たまたまですって」
大江は高良の言い分など、聞いていないかのようだった。
「独立したら普通、こっちからある程度仕事を回してやるもんだが、おまえは一切なしだったよな。ずいぶん手厳しいとは思ったが、もう気が済んだだろ。おまえな、これは長嶺と和解するいいチャンスだぞ。この業界、最後は人の縁だからな。今回ホクヨープリズムさんがおまえに声をかけてくれたのだって、ご縁があってひいきにしてくれたからだろう?」
「はあ……」
宮本高良の返事は、どうにも煮え切らないものになってしまった。
高良と長嶺は、喧嘩をしたわけではない。それ以前の問題だった。彼との別れがこの胸にずっとくすぶっている。
確かに、高良らしくない。はっきりさせることをためらっているなんて。
続きは2015年4月15日発売フルール文庫ブルーライン「囚愛契約」でお楽しみください。