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ルージュライン[お嬢様小説家のキケンな同居生活]

電子書籍化決定!「こんなに濡らして、素直な体ですね。僭越ながら、お嬢様にはすべて私がお教えします――無論、ベッドの中のことも」過保護な執事も夜はオオカミ!? 溺愛ロマンス♪ お嬢様小説家のキケンな同居生活 ~過保護執事に愛されて~

三津留ゆう

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【お試し読み】お嬢様小説家のキケンな同居生活

 私はよし、と頷いて、久我城に向き直る。
「ごめんなさい。もう一度、やってみてもいいかしら?」
「もちろんです」
 久我城はいつものやわらかな表情に戻ると、ぽんぽんと私の頭を撫でてくれた。
「お嬢様は、偉いですね。痛い目にあっても、挑戦しようという気持ちを失くさない。──私はお嬢様のそういうところを、とてもお慕いしております」
「……え?」
「それでは、やってみましょうか」
 とても大切なことを言われた気がして、訊き返そうとした。けれど、久我城が料理の説明を始めてしまったので、うやむやになってしまう。
 彼は私の後ろに立ち、抱き込むような体勢で、私の右手に包丁を握らせた。左手には、そっと包み込むように久我城の手が重ねられている。
「まず、包丁の握り方から──」
 久我城が説明してくれるのだけれど、私はどうにも気が気じゃなかった。
 だって、こんなに男の人に、密着されたことなんてない──!
 上着を脱いだ久我城も、そういえば初めて見るかもしれない。洋服の布地ごしに、彼の体のぬくもりを感じる。薄いシャツを隔てて、しっかりとした胸板がある。シャツの袖から見えるのは、たくましい男性の腕で……男の人に、触れられているのだと実感してしまう。
「左手を切るものに添えるようにすれば、包丁の刃が滑りません。そのまま、力を入れて──そう、上手ですよ」
 変に緊張しながらも、久我城に言われたとおりに包丁を動かすと、じゃがいもは四等分に切れていた。
「……切れたわ!」
 久我城の顔を見上げると、彼もそれに応えるように微笑んでくれる。
「ええ、うまくいきましたね」
「すごいわ、私にもお料理ができるのね!」
 そのまま残りのじゃがいもは、全部自分で切らせてもらった。久我城に手を添えてもらっていたときのように、きれいに四等分にはならなかったけれど、私は達成感に満ち足りた。
 そこから先は、久我城が料理をするのを側で見せてもらうことにする。
「まず、材料を炒めるのがコツです」
 久我城は、鍋に入れた牛肉としょうがを焼きつける。いい香りが漂ってきたところで、他の材料も鍋に入れて炒め合わせていく。
「こうして、野菜と肉にうまみを閉じ込めてから煮込むのです」
 水を入れて煮立てると、久我城は鍋に蓋をして手を拭いた。
「上手なのね」
 鮮やかな手つきに、素直な感想がこぼれた。
「お嬢様も、できるようになりますよ。少しずつ、お教えします」
 久我城にそう言ってもらえると、私もがんばれるような気がしてきた。
「ありがとう。私もいつか、久我城においしい肉じゃがを作ってあげられるようになりたいわ」
 言いながら、私はあれっと首を傾げた。肉じゃがって、そういえば、意中の人を射止めるために、マストなレパートリーだったはず……?
「それは楽しみですね。期待しております」
 久我城がやさしく笑ってくれるので、まあいいかと思ってしまう。
「それでは、煮込んでいるあいだに食卓の準備をしてしまいましょう」
 私は、久我城に教えてもらいながら、お箸やグラス、商店街で買ってきた唐揚げを食卓に並べていった。
 できあがった肉じゃがは、ほっこりと甘辛くて、とてもおいしかった。じゃがいもの大きさは揃っていなくてばらばらだけど、久我城も「おいしいですよ」と言ってくれた。
「唐揚げもおいしいし、素敵な食事ね」
「お嬢様が、ご自分でお求めになって、ご自分で作られたものですからね。おいしさも格別でしょう」
「そうよね。初めてのことがいっぱいできたわ」
 私は実家から持ってきたワインを一口飲んだ。
 初めての経験に興奮していたからか、ちょっと酔ってしまったような気がする。重たいまぶたを瞬くと、久我城が小さく笑った。
「お疲れですか」
「……ん、ちょっと……」
 昨夜は、ひとり暮らしへの期待で眠れなかった。寝不足と適度な疲労、心地よい酔いも手伝って、私はいつのまにかうとうと眠りかけてしまったようだ。
「……明乃お嬢様、明乃様」
「……?」
 夢うつつの瞳で、久我城を見上げる。
「いつもより、お酒も進んだようですね。頬が赤い」
 指先ですうっと頬をなぞられて、私はうっとりと目を閉じた。
 言われてみれば、いつもより酔ってしまっているかもしれない。ふわふわして、なんだか現実じゃないみたいに気持ちがいい。
「もう、お休みになりますか」
「ええ、そうするわ……」
「承知しました」
 久我城は私を横抱きにすると、寝室へと連れていった。
「……そういえば、久我城はどこで眠るの?」
 久我城に抱かれたままで、私は言った。電話で早瀬さんにも言ったけど、この家に久我城の部屋はないはずだ。
「私は、リビングのソファで休ませていただきます」
「ソファで? そんなのだめよ」
 私は久我城を見上げて首を振った。
「久我城だって疲れてるはずよ。ちゃんとベッドで休んでちょうだい」
「しかし、他に寝るところもありませんから……」
「じゃあ、私のベッドを半分こにしましょう? ここで一緒に休めばいいわ」
「──お嬢様、それは……」
「?」
 私は、とろんとした思考のまま首を傾げた。
 もしかすると、私のベッドでは、体の大きな久我城には窮屈だろうか。そうしたら、久我城にはこのベッドを使ってもらって、私がソファで……と、そんなことを考えていると、逸らされていた久我城の視線が戻ってくる。
 目が合うと、彼はふとその目を細めた。
「私のお嬢様は、本当に純真で、おやさしくていらっしゃる」
 久我城は私をベッドの端に降ろすと、その足もとにひざまずく。そっと彼の手のひらが、私の頬を包み込んだ。
「……久我城?」
「そういうところが可愛らしくて、危なっかしい。だから、目が離せないのです」
 灯りを点けていない寝室には、月の光が忍び込んでいた。月影に久我城の眼鏡がきらりと輝き、冴え冴えと凍る湖みたいだ。見慣れたはずの久我城の顔が、別人に見える。
 知らずその端整な顔に見入っていると、「お着替えを」と久我城が言うので、いつものとおりに腕を広げた。久我城の手が、ブラウスのボタンをひとつずつ外していく。毎日やっていることのはずなのに、なんだかそわそわしてしまう。
「く、久我城……」
「何でしょう、お嬢様」
「これも今日から、自分でできます……!」
「おや、そうですか?」
 久我城はくっと笑うと、下着姿の私に、薄い絹のネグリジェを着せ掛けた。
「それでは、私の日課は終わりましたので、これで退がらせていただきます」
「えっ?」
「おやすみなさいませ、お嬢様」
 ふいに離れた久我城の指先に、名残惜しいような気持ちになった。離れていくぬくもりが寂しい。
「ま……待って!」
 とっさに腕を掴んで、呼び止めてしまった。久我城が、驚いた顔で振り返る。
「お嬢様?」
「やっぱり、着せて……」
 少しだけ、甘えてしまった。
 今日からひとりで暮らすのだ。ひとりの夜が、寂しいなんて言っていられない──けれど体は、正直だった。ぎゅっと久我城の腕にしがみついてしまって、離れられない。
「明乃様」
 久我城は、しゅんとした私の肩を抱くようにして、ベッドの端に腰を下ろした。大きな手のひらが、やさしく背中を撫でてくれる。
「ご実家を出られて、寂しいのですね」

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