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ブルーライン[キープアウト~危険な男の甘い拘束~]

書き下ろし2編を加えて文庫化決定!歩く18禁な色男×トラウマ持ちリーマン、2014年フルール新人賞優秀賞作品! キープアウト~危険な男の甘い拘束~

マキ

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【お試し読み】キープアウト~危険な男の甘い拘束~

 縛られたい、と思う。
 拘束されたい。別に芸術的に仕上げてくれとは言わない、ちょっと手首を縛ってくれるだけでもいい。そうして自由を奪って欲しい、身体もこころも、両方とも。
 アブノーマルなセックスに溺れている時間だけは忘れられる、忘れさせてくれる女を探している。圧倒的な力でもって自分を支配して、容赦なく快楽を与えてくれる女がいい。
 まだ出会っていない。いい線を行く相手もいるが、やはり足りない、もっともっと。
 だから結局は、そういう性的嗜好を持つ女を探して会社帰りに今日も街をふらつく。もういやなんだ、何も考えたくないんだ、ああ、何もかもがうんざりだ。
 自分で認識する限り、宮貴史(みや・たかし)とはそうした男である。二十五年、なんとか生きたがもう飽きた。
 常識? 倫理? 知ったことか、おれは縛られたいんだよ。人生投げやり、たとえば今夜名前も知らない女に刺されたって構わない、というかむしろ刺してくれとさえ思っている。終わりにしよう、永遠の忘却なんて素敵じゃないか、思考を放棄してしまいたいんだ。
 今宵のお相手は、見る限り同じくらいの年代の清楚な印象の女にした。こういう女がベッドで化けるさまは面白いだろうか。軽く誘えば大抵の女がついてくる程度には、自分は見目がいいらしい。それを幸運だとも思わないが、女を口説く手順を大幅に省ける点においてだけは感謝する。口下手なのだ。
 彼女に似ているな、と思った。別にだから選んだわけではないにせよ。
 彼女とは、大学時代の恋人である。ほんとうに、蕩けるように愛し合った。それまでにも女と付き合ったことはあったが、あんなふうに好きになったのははじめてだった。互いに社会を知らない子供であったし、それを裏切るように身体は大人だったから、持て余す感情も性欲もすべてを捧げて抱き合った。
 当時はもちろん、縛られたいだなんて思ったことはなかった。
 変化が訪れたのは大学三年の冬だったか、時期まではよく覚えていない。しかしあのときに見た光景はよく覚えている。
 恋人は腰を抜かしていた。声さえ出せない様子だった。逃げたら宮を切り刻むと言われて、だから彼女が逃げなかったのだとしたら、言葉の通り自分が切り刻まれたほうがましだったかもしれない。
 夕方のひと気のない講義室、その床に座り込んだ恋人の前で、男に縛られ犯された。
 大仰なナイフを手にして自分を押し倒した男は、長谷川(はせがわ)、という名だった。体格も腕力も違ううえにそんな物騒なものを使われては、咄嗟には抗えない。
 覚えている。
 それまでは仲のよい友人だと思っていた。惚気話も愚痴もなんでも聞いてくれた。自分と恋人と長谷川の三人でつるんでいつでも笑い声を上げていた。楽しかった。だが、押し倒されて飢えた目を向けられてようやく気づいた、そこには確かにこじれた恋情が透けて見えた。
 この男は違いなく、おれに惚れている、そう思った。
 わざわざ関係をぶち壊してまで襲いかかってくるほどに、おれに惚れている。
 追いつめたのはおれなのか? 恋人と手を繋いで歩く自分の姿を見ながら、やつは何を思っていたのだろう。
 しかしどちらにせよ、そうした行為に及んだ時点でクズであることには変わりない。惚れたから縛って組み敷くなんて馬鹿げたことがまかり通るならば、この世の中はレイプ魔だらけだ。
 犯されたこと自体も当然ショックだったが、それと同じくらいに、恋人に現場を一部始終見られるのが、きつかった。
 レイプの対象が彼女に向かなかったことだけは救いか。
 深く貫かれて堪え切れずに悲鳴を上げた。惨めだった。逆らえば恋人を刺すと脅されて抗わず開いた口に押し入れられたときに、噛みちぎるべきだったといまなら思う。
 暴行の時間は長かった。長谷川はなかなか満足しなかった。中から外から精液まみれにされて、解放されたときには息も絶え絶えだった。
 好きだ、と長谷川は言わなかった。一度たりとも。
 ただ立ち去る間際に、いやに苦しそうな表情をして、ごめん、と零した。
 ふざけるな、謝るくらいならば最初から行為に及ぶな。大体苦しいというのならば好き勝手やられたこちらだ。
 長谷川が出て行き取り残された講義室で、まともに口もきけなかったし、後始末をしなくてはと思いながら手も動かなかった。その自分の前で、恋人は泣いた。可哀想に泣きじゃくった。
 そして翌日、彼女から別れを告げられた。何もなかったような顔はできないということか。
 可哀想というのならばおれもだな、と思った。
 あの日から人生狂ったままだ。いまとなっては彼女に未練もないが、屈辱は色濃くこのこころに翳を落とした。忘れたくても忘れられない。普通に女に目をやれば必ず彼女の泣き顔を思い出したし、では男かと思えば長谷川がちらついた。誰かと恋愛をするなんてもう不可能だ。
 長谷川はその後すぐに大学をやめた。やつなりには罪悪感があったのか? いずれ知ったことではない。自分は普通に卒業し、平凡に就職し、給料分だけは働くがそれ以上はしないやる気のないサラリーマンになった。そして会社帰りにはふらふらと縛ってくれるような女を探して歩く。屈辱も苦悩も何もかも、忘れさせてくれる女を。
 全部全部投げ出したい、そうして藻掻いて辿り着いた結論があの日そうされたように、縛られたい、だとすれば、これは大した矛盾である。
 記憶に縛られているから縛られたい。滑稽な話だ、分かっているが、そうして放棄したいんだ。
 女に拘束されることで、悪夢をひととき歪んだ快楽に置き換えたいんだ、何も考えたくないんだ。それ以外ではない。
 今夜は放棄できるだろうか。
 大学時代、犯された自分の前で泣いた恋人に似た女が、一見清楚な唇でアダルトグッズショップに行きましょうと言うので従った。
 店は女がスマートフォンで適当に探した。あまり人通りも多くない路地の奥、外装だけ見ればいやに綺麗で小洒落ていてアダルトグッズショップには見えないような店まで連れて来られ、女は、自分は外で待っているから、と言って少し笑った。
「アナル用のディルドーと、きつく縛れるロープを買ってきてくれるかしら」
 なかなかだ。アナル用のディルドー? 当然おれに使うんだろうな、そんなものを手にしたことはかつてない。
 買いに行かせるところからプレイははじまっているわけだ、今夜は期待してもいいか。
 ガラスのドアを横に開けて店に入ると、いらっしゃいませ、という無愛想な声をかけられた。レジカウンターの向こうで青年が膝に置いた雑誌を眺めていた。ちらりとしか顔を上げないが、この男は客商売をする気がないのか。
 意外と広い店内に目をやると、アダルトグッズショップというよりはジュエリーショップみたいなきらきらしい印象で、その奥に男がひとり立っていた。
 背が高い、かなり高い。壁一面のショーケースを見つめて何やら考えているその横顔に目をやり、つい、ぞくりとした。
 ちょっと怯むくらいの、素晴らしい色男だった。それはまあいい、夜をうろつき回っているあいだに美しい人間に出会うことにもそこそこ慣れたので免疫はある。しかし、男は造作がどうこうという以上に、雰囲気が妙に性的だった。子供に見せては駄目、歩く成人指定、どう表現すべきか謎だがとにかくこんな男は過去に見たことがない。あまりにエロティックに過ぎてキープアウトの黄色いテープで封じたくなる。

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