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「輪」シリーズ第3作が登場! 文庫『人魚姫の弟』に収録決定! 金の腕輪 ~The bracelet of gold~

犬飼のの

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【お試し読み】金の腕輪~The bracelet of gold~

 愛する兄と共に、実父と継母の許を離れて六年──テオは兄のユリアスと、その夫フェルナンと共に新しい家に引っ越した。今から十日前のことだ。
 これまでは黒い森の中にある赤い家を拠点に旅していたが、当分はこの地で暮らすことになるだろう。
 兄のユリアスは、ここを安住の地だと思いたいようだった。
 フェルナンが冗談めかして「また旅に出たいな」と言うたびに、「落ち着かないんだから」と呆れ顔をしている。その実、研究熱心な彼のことを心から尊敬しているのだ。
「──っ」
 夜も更けた頃、あえて眠らずにいたテオの耳に、上の部屋からギシギシという音が届く。ベッドが軋む音に違いないが、何故こんなに激しくベッドが軋むのか……その理由がテオにはわからなかった。
(ギシギシ……そんなに鳴らないよね?)
 テオは一階にある自室のベッドの上で、寝返りを打ってみたり伸びをしてみたり、同じ音が出るかどうか試してみる。
 思い切り体を揺さぶれば多少は鳴るものの、上階から響いてくるような音にはならなかった。
 テオがこの物音に気づいたのは、片づけに夢中でいつになく夜更かしした引っ越し当日のことだ。真上にはフェルナンとユリアスの寝室がある。
 耳を澄まして注意深く聴いてみると、ベッドの軋みはしばらく続き、小さくなったり大きくなったりを繰り返しているのがわかる。
 眠ってしまえば気づかない程度の音だが、起きていると些か気になった。
 そして音が聞こえた翌朝はユリアスが起きてくるのが遅く……朝食はフェルナンが作っていた。音が聞こえてこない日は逆で、ユリアスが朝食を作る。
 この十日間、その法則は変わっていない。
(今夜もギシギシギシギシ……ベッド、新しいのに壊れてるのかな? フェルナンの寝相が悪くて、兄さん眠れてないのかも)
 テオは薄暗い部屋の中で、ベッドに仰向けになりながら天井を見つめた。
 音は緩急をつけて繰り返し響き、急激に激しく鳴ったかと思うとぴたりと止まる。
 これもいつもと変わらない。寝相だと考えるとどうもおかしい。
(──明日……訊いてみようかな?)
 独りで考えていても仕方がないので、テオは明日こそユリアスに訊くことにする。
 上階に向かって「おやすみなさい」と呟き、上掛けを引き寄せて眠りについた。


 翌朝、やはり兄のユリアスは起きてくるのが遅く、朝食はフェルナンが作った。
 今朝は馬鈴薯のスープとレーズン入りのパン、スクランブルエッグにミルクもある。
 昨夜の時点ではベッドの軋みのことを兄に問い質そうと思っていたテオだったが、フェルナンと二人で朝食の配膳をしているうちに気が変わった。
 新しく買ったベッドが軋みやすい不良品だとしたら、二人は残念に思っていることだろう。それなら自分がこっそり直してあげよう──そう思い立ったのだ。
 長く居た村で大工の息子と仲よくなったおかげで、テオはちょっとした棚くらいは作れる。知らないうちにベッドが直っていたら、二人とも喜んでくれるかもしれない。
「おはよう……寝坊してごめんなさい」
 朝食の配膳が終わったところでユリアスが起きてきて、一階のダイニングに現れる。
 まずは座っているテオの頬にキスをし、まだ立っているフェルナンの頬にもキスをした。
 亜麻色の髪と瞳、柔らかな乳白色の肌を持つ兄は、テオにとって一番の自慢だ。
 いつ見ても美しいが、寝坊した朝は輪を掛けて艶めいて見えるのが不思議だった。
「ユリアス、今日も綺麗だ」
「──ありがとう」
 フェルナンはユリアスの腰を抱きながら頬にキスを返し、さらに唇も軽く啄む。
 二人は一緒に居ることで互いを高め合っており、とてもよい関係だとテオは思っていた。
 フェルナンと暮らすようになってから、ユリアスは熱心に勉強して読み書きができるようになり、容姿にも磨きが掛かった。
 一方フェルナンは、染料や薬の製造販売に力を入れて生活を支えている。
 何より、馬鈴薯を広めて国を飢饉から救った功績が認められ、国王から直々に家と研究費を賜るまでになった。
 そういった流れで行き着いたのが、城下町から程近いこの新居だ。
 必要最小限の広さしかない小ぢんまりとした家屋だが、与えられた土地自体は広く、研究用の畑や立派な温室まである。
「テオ、家の片づけもだいたい終わったし、今日は町に遊びに行ったら? そろそろ新しい友達を作らないとね」
 朝食の最中にユリアスから提案されたテオは、そう言われて初めて町に出ることを具体的に考えた。引っ越してきたのは十日も前のことなのに、まだ一度も出かけていないのだ。
「町まで相乗り馬車に乗ってもいい? あ、でも歩いて行けるかな?」
「歩ける距離だよ。行きは徒歩で、帰りは馬車にしたら? 俺も出かけたかったんだけど、二人じゃ勿体ないからおつかい頼める?」
 目の前に座っている兄の言葉に、テオは「うん」とだけ答えた。
 いつもなら新しい友人を作ることを考えて気持ちが弾むところだが、今はそれほど興味が湧かない。二人が使っているベッドを直すことに意識が向いていたからだ。
「おい、どうした? いつもの元気がないじゃないか。友達いなくて淋しいのか?」
 テオとユリアスの間に座っているフェルナンは、まじまじと顔を覗き込んでくる。
 鬚剃りがまだなので、普通に笑っていても妙な貫禄があった。
「ううん、淋しくないよ。兄さんやフェルナンがいるし、友達はすぐつくれるもん」
「お前のそういうとこいいよな、俺は他人と交流するのが面倒で……いや、逆に一回だけ会うとかは気楽なんだけどな。凄く浅くか、凄く深く。どっちかでいい感じだ」
「そうなんだ? 変なの」
「研究者なんて変人だらけだぜ。お前はそのまま、普通に明るく育ってくれよ」
 フェルナンに頭を撫でられ、テオは「もうっ、子供扱いしないでよ」と抗議しつつ笑う。
 ユリアスは兄だが、ユリアスの夫であるフェルナンは、テオにとって父親のような存在になっていた。
 それだけに二人が他人から後ろ指をさされるのは嫌で、テオは二人が夫婦だということを隠している。隠さなければいけない理由を聞かされたわけではないが、絶対に隠すようにと言われ、その通りにしていた。
 男同士が夫婦の誓いを交わすことは極めて珍しく、『特別』だということはわかっていた。テオの価値観では、皆と異なるものは面白味のあるもの、或いは魅力的なものだったが、世間には『特別』を嫌う人が多いことも知っている。
 六年も旅をしていたので、どうしたら人の輪に溶け込んでいけるか──テオはその方法を自然に身に着けていた。
「兄さん……おつかい今日は無理かも。急ぎなら兄さんが行ってくれる?」
「いいけど、どうして?」
「片づけの途中だし、今はきりが悪いんだ」
「ユリアス、それなら俺と行こう。たまには二人でのんびり町まで歩いて買い物して、馬車で帰るってのもいいだろ?」
 ユリアスはフェルナンの誘いに、「はい」と嬉しそうに答える。
 何かと追及されるかと思ったテオは、事がすんなり運んでほっとした。
 これでしばらく独りになれるだろう。
 二人が町から戻るまでにベッドを直せば、喜んでもらえるうえに自分も安眠できて一石二鳥だ。


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