WEBマガジン{fleur}フルール

登録不要&閲覧無料!! 男性同士の痺れるような恋愛(ボーイズラブ)が読みたい貴女へ。ブルーライン
トップ ブルーライン 銀の指輪 【お試し読み】銀の指輪~The ring of silver~

ブルーライン[銀の指輪]

「塗り替えて欲しいんです……全部、貴方で」──すべてを変える、とろける『初恋』の物語!文庫『人魚姫の弟』に収録決定! 銀の指輪 ~The ring of silver~

犬飼のの

1 2 → 次へ

【お試し読み】銀の指輪~The ring of silver~

 出逢った夜に満ちていた月が欠け、そして再び満ちた頃、ユリアスは恋人のフェルナンと共に旅に出た。もちろん弟のテオも一緒だ。
 元々は貧しい北の村で暮らしていた兄弟は、実父と継母から冷遇され、逃げるように家を飛びだした。
 黒い森とも迷いの森とも呼ばれる森でフェルナンと出逢い、嫁いでこいと言われたユリアスは、それから一月の間、彼の住む赤い家で暮らした。
 研究を手伝ったり、畑仕事や家事をしたり、弟のテオと遊んだり……そして夜にはフェルナンに愛され、人生で一番幸せな日々を過ごしたのだ。
 それだけに彼の家を離れるのは寂しかったが、この旅には確固とした目的がある。
 飢饉で命を落とす人がいなくなるよう、新しい食物を普及させるための旅だ。
「──っ、ん……」
 ユリアスとフェルナンは、旅先の宿で声を殺して睦み合う。
 崇高な目的があろうと、夜になればただの恋人同士だ。
 同じ部屋で眠るテオの存在を気にしながらも、週に何度か……こうして触れ合わずにはいられなかった。
(……声が……っ)
 誘われるまま彼のベッドに移ったユリアスは、嬌声を漏らしそうな唇を噛む。
 二部屋取る余裕がないため、旅に出てからは最後まで繋がることがなくなっていた。
 それだけに余計、愛撫に感じ過ぎてしまう。
「……は……っ、ん……ぅ」
「──ッ」
 触れられるだけではなく、ユリアスもフェルナンの体に触れていた。
 今は横向きに寝て彼に背を向ける形を取り、きつく閉じた腿にフェルナンの性器を挟んでいる。さらにはその先端に触れて、溢れる蜜を指に絡めた。
「ふ……っ、ぅ……」
 フェルナンの温もりを、ユリアスは終始肌で感じ取る。手や腿だけではなく、腰や背中にまで沁みる熱だ。うなじで感じる吐息まで熱っぽく、情欲を掻き乱される。
 大きな腕に包み込まれながら、胸の突起や反り返る屹立を弄られた。
 一連の行為はすべて上掛けの中で行われ、テオが急に目を覚ましても、誤魔化せる体勢を取っている。弟を大切に想うユリアスの気持ちを、フェルナンはよく理解したうえで気を使っているのだ。
「ユリアス……」
「……ん、ぅ……っ」
 耳を舐められながら名前を呼ばれたユリアスは、その甘さに夢見心地になる。
 フェルナンの声は低音で男っぽく、それでいてぞくぞくするような艶を秘めていた。
 ユリアスの性器を包む手も、大きさに反して繊細に動く。乳首を揉む指先も器用だ。
 小さな突起を上手く転がし、摘み上げては先端を摩擦する。
「は……っ、ぁ……」
 ぴっちりと閉じた股の間を、彼の熱い物が行き来した。
 ベッドが軋まないよう気をつけながらも、最後は速く激しく動きだす。
「──っ!」
 張りだした亀頭に双珠をぐりぐりと押されながら、ユリアスは彼の性器を両手で捉え、手で作った筒の中に迎えていた。緩急をつけて強く握ったり撫でたりしながら、挿入した時に近い快楽を与えられるよう意識する。
 しかし気持ちのすべてを向けるわけにはいかず、ユリアスは常に隣のベッドを気にしていた。テオは夜中に起きたりしない子供だが、絶対ということはない。弟の隣でフェルナンとの行為に集中するのは難しかった。
「──ッ!」
「ん……ぅ、ぁ……っ」
 お互いの手の中に放つ、刹那の悦びと解放感──振り返ればキスをされ、気持ちがよく、とても嬉しい。けれど本当は足りなくて、体の奥が疼いて苦しかった。
 そのくせ何も言えない。男娼上がりであることを気にしているユリアスには、自分から淫らに迫るような真似はできなかった。ただ控えめに笑って、「もう戻りますね、おやすみなさい」と告げるしかないのだ。
 そうしてテオの寝るベッドに戻る自分を、彼が引き留めてくれないことに淋しさを感じる。それは勝手な話だとわかっているのに、頭の中で描くのは不埒な妄想ばかりだった。
 乱暴に腕を掴まれ、「行くな」と言われたい。組み敷かれて、「駄目……やめて」と言っても聞いてもらえず、滅茶苦茶に貫かれたい。
 ベッドが激しく軋む音を聞きながら自分は焦り、それでも快楽に呑まれて……最後にはテオのことを考えられなくなるだろう。実際には困るのに、そのくらい求められたいと願いながら、ユリアスは元のベッドに戻る。
「──おやすみ」
 穏やかで、幸せだと思った。でも足りない。
 今からでもいい。もう一度「来いよ」と誘ってほしい。
 もしくは突然上掛けを捲り、忍んできてほしい。
 満たされない体の奥に、自分でも信じられないほどの熱が燻っていた。


 夏の朝の陽射しは強く、靄掛かった劣情を浄化してくれる。
 深夜にあれほど悶々としたのが嘘のように爽やかな朝だ。
 ユリアスはフェルナンの鬚を剃りながら、いつも太陽に感謝する。
 夜になれば狂おしい欲望が頭を擡げるけれど、朝が必ず来てくれるから、どうにか今日も正常でいられる。
「はい、髭剃り終わりましたよ。髪も少し切って好青年に見せかけましたからね」
「おいおい、見せかけるってなんだよ。俺は正真正銘の好青年だろ?」
 宿屋の一室で、ユリアスはフェルナンの鬚を剃った。
 今ではこれが日課になっている。毎日剃らなければ貫禄が出過ぎてしまう彼の顔を爽やかに仕上げ、一緒に村を回るのだ。
 ユリアスは今日も出来に満足しながら、彼の前掛けの紐に手を掛ける。
 それを外せば鬚剃りは終わりで、彼はいつも通り礼を言って笑うだろう。
 ところが彼に渡した手鏡越しに、ぴたりと視線が合ってしまった。
 力強い黒い瞳が、鏡の中から確かにこちらを見ている。外せないほどしっかりと、視線を掴まれてしまった。
「ありがとな。ほらどうよこの顔。水も滴るいい男だろ? 惚れ直したか?」
「──っ」
 小さな手鏡の中から冗談めかして言われ、ユリアスは忽ち息を詰める。
 冗談の一つも言える仲になったのに、時々こんな不可思議な現象が起きた。
 滑らかに動いていた口が急に動かなくなり、言おうと思っていた言葉が頭の中から消えるのだ。
「ユリアス?」
 彼が変に思っている。早く何か喋らなきゃ、普通の表情に戻して、前掛けを外してあげなきゃ──そう思っても、口も手も動かない。
 鏡に映る恋人は、気さくで優しくて料理上手で、基本的に真面目だけれど時々いい加減なところもあって面白くて……とても好きなのに、大好きなのに……その想いに相応しい態度が取れなくなる時があった。
 ユリアスはいつだって、「貴方が好きです」と、彼に伝わるような態度を取りたいと思っている。それなのに上手くいかないのは何故なのだろう。彼の家で暮らしていた頃は、こんな現象は起きなかった。旅を始めてから時々起きるようになって……特に、この村に来てから酷くなった。
「急に黙り込んでどうしたんだ? 鬚剃った俺が男前過ぎて言葉も出ないか?」
「あ、あとは自分でやってください……テオのことが気になるので、見てきます」
 やっと喋れたと思ったら、予期していない言葉が勝手に飛びだした。
 フェルナンの表情が固まって、白けさせてしまったのがわかる。
 失敗した……そう思うのに、壊した空気を元に戻すことはできない。
「お前さん、最近ちょっとつれないよな」
 つるりと剃られた肌を撫でながら、フェルナンは溜め息をつく。手にしていた鏡を、鏡面を下にしてテーブルの上に置いた。

1 2 → 次へ
▲PAGE TOP