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ブルーライン[純情彫刻家の不埒な指先]

WEB連載分に書き下ろしと伊東七つ生先生のイラストをつけて文庫化! 純情彫刻家の不埒な指先

浅見茉莉

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第4回:【お試し読み】純情彫刻家の不埒な指先

 棚倉の話を聞きながら、真柴の脳裏にもやもやとボディビルダー同士の肉弾戦が浮かぶ。ぞっとしない光景なので、細部まで想像できない。
「最近はそのモデルの入れ替えが激しいみたいなんだよな。使えなきゃ取り替えるってのはアリだろうけど、ここ二年近く新作も発表してない。で、ただ単にモデルと戯れてるだけなんじゃないかっていう――」
 棚倉の話が取材のための事前情報というよりもゴシップめいてきて、真柴は片手を上げてそれを制した。
「ちょっと待って。そんな話聞かされても、俺まだ受けるって言ってないし」
「報酬は弾むぞ。なにしろ一切の取材はシャットアウトどころか、素顔すらろくにわかってない相手だからな」
「えっ、無理ですって。そんなの、素人の俺ができるわけないじゃないですか。だいたいアポも取れないってことでしょ」
 自慢ではないが、仕事といえるようなものはデッサンモデルしか経験がない。セッティングされた取材だって、できるかどうか怪しい。
「いや、アポは取った」
「へ?」
 それなら棚倉が行けばいいではないか。スケジュールが詰まっていようと、真柴にやらせるよりはずっと確実だ。
 と、口を開こうとしたが、それより早く棚倉の言葉が耳に飛び込んできた。
「モデルとして、な」
 ……モデル?
「誰が?」
「おまえに決まってるだろ」
 当たり前のことを聞くなとばかりに、棚倉の指が真柴をさす。
「俺!? ありえない!」
「なんで」
「だってマッチョなんでしょ? どう見ても違うじゃないですか、ほら!」
 真柴がシャツを羽織った胸を突き出すと、棚倉は肩を竦めた。
「潜入の手口だよ。正面切ってが無理なら、そこから行くしかないだろ。モデルは常時探してるようだからな、けっこうあっさり通ったわ。写真はどっかのビルダーのを借りたけど。ま、おまえが写真に合わせて身体作ってくれてもいいよ」
「無理言わないでください! ていうか、そんなバイトやりませ――」
「はい」
「はっ!?」
「爆発まで五秒。四、三――」
「うわああっ!」
 いきなり拳大の木箱を渡されたかと思うとカウントが始まり、真柴はぎょっとしてそれを放り出した。飛び退った足もとに落下した箱から、陶器が割れる音がする。
「……な、なにっ?」
 いったいなんなんだと混乱する真柴の前に屈んだ棚倉は、木箱を拾い上げて「あーあ」と呟いた。ふたを開けると、中には真っ二つになった陶製の鈴のようなものが入っていた。
「幸田先生からの借り物。江戸時代のやつ」
「えええっ!?」
「けっこう値が張るって言ってたなあ」
 値打ち物を壊してしまったことにも震え上がったが、その持ち主が鬼教授の異名を持つ幸田とは――。
「……ど、どうしよう……」
「取材成功したら、弁償代くらいのバイト料は出してやるよ。幸田先生にもとりなしてやる」
 棚倉がにやりとする。
「……やるしかないってことですね……」
 まんまと棚倉にしてやられたわけだが、真柴に断るすべはなかった。

続きは2015年7月15日発売フルール文庫ブルーライン「純情彫刻家の不埒な指先」にてお楽しみください。

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