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ブルーライン[満員電車で逢いましょう~温泉ハネムーン特急~]

WEB掲載分に書き下ろしを加えて電子書籍化決定! 満員電車で逢いましょう~温泉ハネムーン特急~

岡野苑子

【お試し読み】満員電車で逢いましょう~温泉ハネムーン特急~

 この春念願の小学校教諭として働きだした飯島(いいじま)が、健康診断の結果を見ながらこの世の終わりのような表情をしているので、まさか大病の兆しでもあったのかと肝を冷やしたらただ単に体重が増えただけだった。思わず拳を握って振りあげたくなるくらいに紛らわしい。
 っていうかたった二キロ増えただけだろ、んなの誤差の範囲だ誤差の!
 ソファに座った飯島が、診断結果の書かれた紙を延々と眺めては溜め息をついているので、俺は毟(むし)りとるようにそれを没収すると彼の上にのしかかった。温かい胴体の上でくつろぎながらテレビを付ける。
 付き合い始めて二年半。同棲を始めて二ヶ月と少し。
 恋人同士になれた頃の「下手を打って嫌われたらどうしよう」なんていう不安は俺の中からすっかり消えて、最近はようやく彼の前で自分らしく振る舞えるようになれたと思う。良く言えば関係性が馴染んできたということだろうけど、こんな調子で緊張感がなくなっていってマンネリ化していくのもそれはそれで問題だ。
 あーでも、この安心感は心地いい。
 このまま二人溶け合ってひとつになってしまいたいなんて、セックス以外で思う日が来るとは思わなかった。
 画面を見つめながら飯島のTシャツをめくると、露わになった柔らかい腹の肉を揉む。横になって肘置きに頭を乗せる彼の上に俺がのしかかるような体勢だから、こちらのいたずらに向こうは不満そうに呻くことしかできない。
 うーん、確かにちょっと丸くなったかな。でもこの程度ならほとんど気にならないし、逆に触り心地が良くて楽しいし、何より同棲を始めてから体重が増えたってことは、要するにこれ幸せ太りだろ。恋人としては嬉しい。
「ぷにぷにだなー」
「やめてよ、もー……」
 飯島が仕返しとばかりにこちらの腹を摘まんできたけど、思った以上に俺の脂肪が少なかったらしく、彼は絶望的な表情で「明日からランニングしよ……」なんて独り言を漏らしていた。
「高野(たかの)さんすごいよね、なんでその体型維持できてんの」
「食う量がおまえの半分以下だからだろ」
「うっ」
「まずは運動以前に食事制限だな」
 俺の食う量が平均以下とはいえ、それにしたって飯島はよく食べる。パスタは必ず大盛りだし、定食のごはんおかわりだのラーメンに半ライスだ半チャーハンだミニ餃子だ、俺からしたらとんでもない量をぺろりといつも平らげている。代謝がいいから今までは問題なかったんだろうけど、このまま続けていたら緩やかに太っていって確実に中年太りだな。
 まあ食ったら食った分だけ肉付きが良くなれるのは羨ましいけどさ。中学、高校と必死で牛乳飲んだり肉食ったりしたのに、縦にも横にもまったく伸びなかった己の忌まわしい過去が思い起こされる。
「職場で言われねえの? 太ったって」
「えーまあ……あ、そういえば」
 飯島があからさまに話題の矛先を逸らす。
「職場といえば、この前高野さんの話になって」
「へえ」
「なんか年上の恋人がいるって言ったら、意外だなーってみんなに言われたのと、あと名前が」
 唐突に飯島が言葉を切る。
 ん?
 テレビから視線を外して振り返ったら、彼はなぜか不満そうに眉をひそめながら俺を見つめていた。俺の髪を指で梳きながら小さくつぶやく。
「……なんでもない」
「お? おう」
 なんだなんだ突然。
 しばらく飯島が言葉を続けるのを待っていたけど、口を開いたかと思ったら彼は俺の髪で遊びながら関係のないことを聞いてきた。
「たのしい? テレビ」
「うん」
 奮発して買った大型の液晶画面には、下から見あげたようなアングルで屋久島の縄文杉が映しだされている。樹齢二千年を超えるこの杉が伐採されず現存しているのは、幹の表面がでこぼこしすぎているせいで材木として利用しづらかったからだそうだ。映像と一緒に流れてきたナレーションで知る。なるほど。
「高野さん好きだよね」
「んー?」
「こういう番組」
「あー」
 飯島の問いに生返事を返す。
 最近は海外ドラマを毎週追いかけるのがしんどくなってきて、こういう大自然だとか世界遺産の旅番組ばかり録画して見る日々だ。雄大な風景美は仕事で疲れ果てた俺の心を癒やしてくれる。あー俺も旅行に行きてえー、いっそ国内でいいからさ。確かに癒やされることに違いはないんだけど、テレビ越しに美しい風景を眺めていると旅行欲が刺激されて、仕事なんか放りだして今すぐにでも旅に出たい気分に陥る。
 番組は屋久島の大自然から島の温泉地へと移動した。いいなー温泉。今度一泊旅行でもしようかな。箱根とか鎌倉とか。もちろん飯島と二人で。こういう時恋人が同性だと、同じ大浴場に入れるから得した気分になる。あーでも露天風呂付きの和室とかも最高だな。二人で湯に浸かりながら日本酒飲みたい。
 飯島の指が、俺の髪から顔に移動してくる。
 するりと頬を撫でられて唇を摘ままれた。
「んむっ」
 それでも無視してテレビを見続けていたら、彼はしばらく俺の唇で遊んだ後おもむろに人差し指を口の中に押しこんできた。おえ。何がしたいんだこいつ。構ってほしいのかな。でも今はテレビに集中したいので、とりあえず適当に指を甘噛みするだけに留める。
 そのままほっとけば退(ひ)くかなと思った俺が甘かった。
 いつまで経っても飯島の指が口から出ていかないんだ。俺の舌を弄(いじ)くる程度ならまだいいんだけど、頬の内側や歯列にまで及ぶと途端に集中力が切れてしまう。かといって相手をすればよからぬことが始まりそうだし、でも俺はこれから始まる屋久島のグルメレポートが気になるし。
「んっ……」
 根負けして彼の指を舐めたら、飯島は反対側の手で俺の上半身をまさぐりだした。ほらなー。ペットでも撫でるみたいな手つきは最初だけで、脇腹や腰といった性感帯に似た場所を愛撫したり、優しく胸を揉むような仕草を見せたりと、あっという間に触り方がいかがわしいものへと変わる。
 何より耳元で響く彼の息づかいが、どんどん荒くなっていくのが一番露骨だった。隠しきれない下心が吐息からだだ漏れ。
「……ふ、っ」
 飯島はとうとう体勢を入れ替えると、俺をソファに寝かせて上から覆い被さってきた。すぐにTシャツの上から乳首に触れてきて、指先で擦ったり引っ掻いたりしてくるのでさすがに抗議の声を上げる。
「……おい」
「んー?」
「俺まだ、テレビ見てる、んだけどっ」
「見てていいよ」
 いいわけあるかスケベ野郎!


続きは2015年6月15日配信開始のブルーライン電子書籍限定短編
「満員電車で逢いましょう~温泉ハネムーン特急~」でお楽しみください。

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